特急『かんぱち・いちろく』JR九州のD&S列車に乗って鉄道の旅

2025/03/08

かんぱちいちろく 大分 鉄道 日本の歴史


博多駅ホーム



【はじめに】


2024年4月26日に運行を開始した、『かんぱち・いちろく』に乗って、大分県別府市まで旅をした。

『かんぱち・いちろく』が走る*久大本線(きゅうだいほんせん)は、豊かな山・川・平野の自然景観が美しい。

四季折々の自然の美しさを楽しむことができる。

旅の途中、おもてなしを受ける停車駅・おもてなし駅が設置されており、地元も特産品や工芸品を購入することができる。

博多駅から別府駅まで向かう道中、行く先々で、あらゆる方々が、『かんぱち・いちろく』に向かって手を振ってくれる。

走行音や揺れが少ない『かんぱち・いちろく』の車内は、落ち着いた空間で、移動そのものが旅である。

『かんぱち・いちろく』に乗車、出発、そこはもう別世界、幸せで楽しい旅の始まり。


*久大本線:下で説明




【久大本線】


久大本線の「久」は久留米、「大」は大分のこと。

久大本線は、久留米駅から大分駅のJR九州の鉄道路線で、九州横断鉄道の一つ。

久留米駅は福岡県久留米市、大分駅は大分県大分市にある。

141.5㎞の路線は、筑後川、玖珠(くす)川、大分川の流域を結ぶ。

久大本線は、ゆふ高原線の愛称で親しまれている。




【D&S列車】


D&S列車は、JR九州の観光列車で、デザインと物語のある列車。

D&Sは、デザイン&ストーリー。

「D」は特別なデザインの列車、「S」は沿線地域に伝わる歴史や伝説などのストーリー。

D&S列車での移動そのものが旅であり、まるでテーマパークを訪れたかのような、楽しい九州の旅ができる。

どの列車の車体も、沿線地域のストーリーを感じるデザイン。

列車内のデザインや演出は、沿線地域の特色・歴史・伝説がモチーフになっていたり、伝統工芸が使われていたりと凝っている。




【かんぱち・いちろくの運行ルートと運行日】


博多駅発の下り列車が『かんぱち号』

別府駅発の上り列車が『いちろく号』

久大本線(ゆふ高原線)を経由し、博多駅から別府駅の間を約5時間かけて運行。

1日1便の運行となっており、月・水・土は『かんぱち号』、火・金・日は『いちろく号』の運行日となっている。

食事付の列車となっており、座席のみの販売はなく、JR時刻表に『かんぱち・いちろく』の時刻は記載されていない。

食事は、福岡・大分の料理人が、福岡・大分の食材を中心に使用して作ったお弁当。

和食・イタリアン・フレンチと、運行コースと曜日ごとに食事を作るお店が異なる。



中州松のお弁当


日田杉と小石原焼を使用した重箱



この日は月曜日、和食・中州松(福岡)のお弁当。

お弁当の重箱は、『かんぱち・いちろく』が通る沿線地域の伝統工芸を使用している。

重箱の蓋のタイルは、福岡県東峰村の小石原(こいしわら)焼。

重箱と御吸物が入ったカップは、大分県日田市の日田杉。




【かんぱち・いちろく名前の由来】


現在の久大本線を形作り、久大本線全線の開通を実現した、以下の2人の名前が由来となっている。



麻生観八(あそうかんぱち)


大分県の八鹿(やつしか)酒造3代目

「大分から久留米に鉄道を…」


1865年:日田の酒造家・草野家の五男として誕生

1880年:15歳で麻生家に養子として入る

1885年:20歳で*舟来屋・麻生酒造場を再興

1906年:久大線敷設の運動を始める

1919年:大分~久留米間・久大線敷設の法案可決

1928年:麻生観八氏逝去


豪商・草野家の分家で、酒造家・草野丈右衛門の五男として生まれた観八。

名家に生まれながら12歳の時に家が破綻し、並々ならぬ苦労をした。

「大人になったら家業の酒屋を再興しよう」という思いが、養子先の麻生家で果たすこととなる。

麻生観八氏は、久大線の開通をみることなく逝去されます。


*舟来屋(ふなこや):当時呼ばれていた屋号



衞藤一六(えとういちろく)


旧大分県農工銀行頭取

「北由布、南由布、両村を通せ!」


1870年:北由布村の溝口家の四男として誕生

1891年:21歳で衞藤家に養子として入る

1913年:大分県農工銀行に入る

1925年:*湯平~*北由布開通

     南由布駅と北由布駅が開業

1926年:大分県農工銀行の頭取を歴任

1928年:衞藤一六氏逝去


北由布村は、駅の開設と並行して、周辺の道路整備、役場や小学校などの建設を進めた。

後に、住宅や商店なども建つことで大発展を遂げた。


*湯平:大分県由布市の湯平駅

*北由布:大分県由布市の現在の由布院駅




【車両デザインと演出】


[車体]

艶のある黒の車体に、久大本線の路線図(久留米駅から大分駅)をゴールドで描いている。


[1号車]

大分・別府をモチーフにしたデザイン。

火山や温泉を連想させる赤をベースとした空間。


[2号車]

大分・由布院と日田をモチーフにしたデザイン。

杉の一枚板カウンターのラウンジ杉がある共有スペース。

大きな窓から景色を望むことができる。

客室乗務員さんによると、ラウンジ杉は樹齢250年の大分・日田の御神木とのこと。


[3号車]

福岡・久留米をモチーフにしたデザイン。

筑後川や平野、耳納(みのう)連山を連想させる青と緑をベースとした空間。


[客室乗務員さんの制服]

国指定重要無形文化財の久留米絣。

黒色の制服を間近で見ると久留米絣だと気づく、オシャレなデザイン。


[お弁当の重箱とカップ]

上記で述べた通り、重箱とカップは日田杉、重箱の蓋のタイルは小石原焼。


[車内販売のオリジナルグッズ]

上記で述べた麻生観八、八鹿酒造のオリジナル商品。

車内限定ボトルの八鹿酒造の日本酒、焼酎。

八鹿酒造オリジナル枡など。


車内の至る所に『かんぱち・いちろく』が通る沿線地域の伝統工芸や特産品を使用していたり、モチーフにしていたりと、デザインや演出が凝っている。



1号車 大分・別府


2号車 ラウンジ杉


車内ドア


八鹿酒造のオリジナル商品



博多駅ホームに入線する『かんぱち・いちろく』

ゴールドの路線図が描かれている




【車内アート】


車内には、福岡・大分で活躍する作家さんの作品が飾られている。

アート作品は空間を演出し、車内と一体化している。



暖簾の先は3号車


空間と一体化したアート


左右上にアート




【オリジナルグッズ】


上記でも少し述べたが、ここでは自分用に購入したオリジナルグッズを紹介。



右上の箱はロゴキーホルダー


右上:ロゴキーホルダー(1,500円)

左上:立体キーホルダー(1,500円)

左下:列車ピンズ(700円)

中央:ロゴピンズ(700円)

下:D&S列車キーホルダー(2,200円)


D&S列車キーホルダーは、D&S列車内で購入できる。

D&S列車キーホルダーの一番後ろに『かんぱち・いちろく』が繋がれている。

ロゴキーホルダーと立体キーホルダーは同じ値段なのに、なぜかロゴキーホルダーだけ箱に入っている。

汚したくないので開封できないでいる…。

立体キーホルダーとロゴピンズがとても気に入っている。




【車窓からの景色】


窓越しに見る景色は、まるで美術館で絵画を見ているかのよう。



大分・玖珠 伐株山


大分県玖珠(くす)町にそびえる台形の山、伐株山(きりかぶさん)は、テーブルマウンテンやメサ大地と呼ばれ、国内ではとても珍しい地形。



別府湾


大分駅から別府駅の間は、海沿いを走るエリア。

もうすぐ終点の別府駅。




【おわりに】


列車に乗って旅をするのが好きだ。

変わりゆく景色を窓越しに見るのが好きだ。

久大本線の一部エリアは見慣れた景色。

列車の窓越しに見ると、見慣れた景色も別世界。

列車は美術館、列車の窓は絵画。

窓越しの景色は、常に動く絵。

行く先々で、『かんぱち・いちろく』に向かって手を振る人の姿を見る。

列車から離れた場所でも、子どもやお年寄り、海外の方まで手を振ってくれる。

手を振り返すと、思いっきり手を振り返してくれる。

「あんなに離れた場所でも、手を振っているのが見えるんだ」

おもてなし駅では、『かんぱち・いちろく』が描かれた旗と手を振って、お出迎えとお見送りをしてくれる。

手を振られると嬉しくて、思わず手を振り返す。

「手を振るって楽しい。手を振られるのと手を振るってこんなに幸せな気持ちになるんだ」と初めて気づく。

「列車を見たときは手を振ろう」



おもてなし駅の田主丸駅で『ゆふいんの森』とすれ違う


初めて『ゆふいんの森』に乗った小学3年生の時から、久大本線経由で大分に行くことが好きだ。

久大本線は、自然景観が美しく、どこか懐かしい気分になる。

『かんぱち・いちろく』に乗るまでは、久大本線開通の歴史を全く知らなかった。

かんぱちさん、いちろくさん、久大本線の開通を実現してくれてありがとう。