数年前、2泊3日で大阪・京都を旅行した。

私は初日からインフルエンザにかかっていたようだ。

初日の昼頃から、喉がムズムズ咳払い。

2日目、夕方になると喉と鼻が乾燥し、体に違和感があり、夜寝付けなかった。

3日目、体が鉛のように重い。2,3歩、歩いただけでキツくて立ち止まった。


3日目は、京都の鞍馬寺に行く予定。

徒歩と電車で移動中、病院があれば寄りたいのに、病院が見当たらない。

そうこうしているうちに、鞍馬寺の入り口"仁王門"に着いた。

大変なことに気付いた。

鞍馬寺までは軽く登山をしなければならないことに…。

しかも、雪が降り出したかと思えば、雨が降り出したり、変な天気になった。

「登れるかな?無理かも。これを逃せばもう来ないと思う」

意を決して登った。

幸いなことに、行く途中にベンチやお堂があったので、休憩しながらゆっくり登った。

"巽の弁財天"のお堂では、ベンチに寝そべり、かなり休んだ。

"巽の弁財天"から5分程歩くと、階段の踊り場のような場所になり、石段があった。

その石段を見上げた瞬間、突然体が軽くなった。

「この石段の上が本殿だ」すぐに分かった。


鞍馬寺の本殿に着くと、さらに体が軽くなった。

体が宙に浮いているかのようだ。

「体が元に戻った!息切れもしない。凄い!」

私は嬉しくて、飛び跳ねるように境内を歩き回った。

まるでナウシカが、王蟲の黄金の触手の上を歩いているかのように。

しばらくすると、静寂と威厳に包み込まれていることに気付き、私は立ち止まった。

すると、雪と雨が止み、雲の間から日脚が伸び、黄金の光が境内を照らした。

私達以外には誰もいない。

「歓迎とサプライズだ。今この場に立てたことは、とても素晴らしいことだ」

優しい気持ちになった。


鞍馬寺を後にして歩いていると、行きは見当たらなかった病院がすぐに見つかった。

午後から休診なのに、先生も看護婦さんもとても優しく、診察して下さった。

インフルエンザA型だった。

体が軽い状態は、帰りの新幹線乗り場まで続いた。

やっとの思いで自宅に辿り着き、そこから1週間寝込んだ。


5日後、だいぶ体調も良くなり、窓を開けて外を見た。

6メートル先の電柱の真ん中に、天狗の姿をした人が立っている。

天狗は、スターウォーズのダースモールがフードを被り、天狗のお面をしているような姿で、黒のマントの中の服装は、修験者のようだった。

じっと私を見つめている。

じっと見つめるだけで、全く動かないので、私は窓を閉めて寝た。

「私のことを見守ってくれているのかな?ありがとう」


霊感のある人に話した。

「鞍馬寺は宇宙と繋がる場所。インフルエンザになったのは意味がある。インフルエンザになることで、何も考えられない状態にした。天狗は守護霊の分身。鞍馬寺の近くに祀られている守護霊の分身が、鞍馬寺の下からずっと着いてきて、インフルエンザが治るまで見守っていた。だから天狗はもう側にいない」

「牛若丸と稽古をした天狗ですか?」

「天狗というよりも修験者。人。宇佐神宮のお祭りでも、武内宿禰が先頭で天狗のお面をして歩いてる」


それ以来、私は天狗が好きになった。

いっそのこと天狗になりたい。